ショッキングなニュースに慣れたくない
給湯器が10日間壊れていた。正規店に電話すると「コロナ禍とウクライナの戦争の影響で半導体が入ってこないので、新しい給湯器は3か月から半年待ちです」と言われた。幸い、あたたかくなりつつある時期だったから、洗顔や洗濯や皿洗いは水で、夜は家族と銭湯に通っていた。正規店と並行で町の工務店に電話していて、そこからは思っていたよりかなり早く入荷情報が届いて、昨日、新しい給湯器が取り付けてもらった。お湯が出た時、感動した。当たり前のことが当たり前にできるって、こんなに幸せなんだと思った。
先週、地震に遭われた方。これから停電に遭われる方。お見舞い申し上げます。
一応、被災したことがある身としては、普通が壊れた後に当たり前が戻ってくるまでに、とても長い時間がかかることを知っているから、「お見舞い申し上げます」の一言で済ますのがものすごく抵抗がある。もちろん、言わないより言ったほうがいいってこともわかっている。でも、それだけで済ましてしまいそうになりそうな、自分が怖い。
「連帯します」って言葉も似ていて、それだけで済ましてないか?と考える。いつでもその問題がどうすれば解決するのか考え続けて、当事者の人々に寄り添って、日常生活を動けているか?と自問自答する。ショッキングなニュースに慣れたくない。慣れて、いつのまにか映像にも写真にも心動かされなくなって、時々「想っています」と口にして、自分の作品で大問題みたいに扱う。実生活では何にもしない。そういう言葉だけの人になりたくない。
心の中に他の人を住まわす。心のどこかを、他の人のために空けておいて、日常の行動の少しを、その他の人のためにおこなう。
9月末に上演する新作『女の子は死なない』の、導入部分のプロットを上げた。自分が今考えていることを演劇にする。つまり、性暴力被害のカミングアウトがなぜ、誇らしいことではなく恐怖の再体験になってしまうのか? そこにはどんな社会構造(メカニズム)があるのか? わたしなりの仮説を立てていく。そして当事者の解決の道を見つける。どんなに細い糸だったとしても、たぐりよせて、道にする。
その手がかりとしてヴァージニア・ウルフを読んでいる。
ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』を読みました(イラスト・文:よしもとみおり)
『自分ひとりの部屋』の感想をインスタに書いた。以下転載。
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読みました。自分の小説作りが、文学の中での女性に対する向き合い方が、何も新しくなく、男性によって眼差されていた女性像の再生産に過ぎなかったことを痛感しました。
男性の眼差しを借りて、男性の言葉を使って、女性を語ろうとしてきたから、わたしの小説にはポルノシーンが必要だったんだなと思いました。
自分の中で小説を再定義しなくちゃなあ。
もちろん100年前の本なので違うよなあと思うところもあって。例えば「女性作家はストーリーの中に社会への恨み言を書くな」というところ。ウルフの書いたことは当時、女性の小説を芸術と男社会に認めさせるために必要不可欠なことだったけど、反面、ようやく絞り出された女性の声を奪うような批評だなと思いました。また彼女は優れた芸術家になるために自分自身からも声を奪ってしまったから、最終的に自殺してしまったのかなと思ったりしました、わからないけどね。
女が男社会に恨み節を書いても文学だと認定されること自体が、ウルフが何度も言っていた「100年後」の変化が起きた世界が到来したってことなのかもしれない。ウルフの言った「100年後」の世界は、『82年生まれ、キム・ジヨン』の大ヒットが達成したのだろうなあとか、色々考えました。
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ひとつの作品をつくるのに、小説・評論・漫画・映画・映像・演劇・舞踊・音楽・美術・ファッション…あわせて50作品ぐらいを摂取する。もっとかもしれない。たくさんの先人の芸術品から少しずついただいて、わたしの作品をつくってゆく。山に登ったり海に行ったり街を歩いたりもする。できない場合は地図を見る、見て、書き写す。その街にあるもの、歴史や地形が眠っている、語られていない物語を教えてくれる時もある。戯曲執筆は化石発掘と似ている。
それができない人が世界にいる。戦争や暴力にさらされて。それが悲しく悔しい。
よしもとみおり
追記①
劇団TremendousCircusさんにて、9月末に完全新作演劇『女の子は死なない』を発表します。詳細日程は2022年9月28日(木)~10月1日(日) 。阿佐ヶ谷シアターシャインにて。つきましてはオーディションを開催いたしますので、ご応募お待ちしております。楽しい時間を一緒に過ごせますように。2022年3月27日(月)〆切です。
追記②「二次被害をなくすために、私たちができること」に賛同しました。性暴力は、暴力を振るわれたその瞬間だけでなく、なんとか生き延びたその後も被害者に「言葉の暴力」が振るわれます。報道による二次被害を防ぐために、わたしたちが被害者にも加害者にもならないようにこの文章を読んでください。
それでは、また。
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